造影剤市場規模と展望、2025-2033年

## 造影剤の世界市場に関する詳細な市場調査レポート概要

### 1. 市場概要

世界の造影剤市場は、2024年に504億7,000万米ドルの市場規模を記録しました。その後、2025年には530億9,000万米ドルに成長し、2033年までには796億4,000万米ドルに達すると予測されており、2025年から2033年の予測期間において年平均成長率（CAGR）5.2%で堅調な拡大が見込まれています。

造影剤とは、X線、コンピューター断層撮影（CT）スキャン、磁気共鳴画像法（MRI）などの医療画像診断において、特定の臓器、組織、または血管の視認性を向上させるために使用される特殊な薬剤の総称です。これらの化合物は、画像の詳細度と精度を高め、診断の正確性を飛躍的に向上させることを目的としています。

造影剤は、多岐にわたる医療画像診断において不可欠な役割を担っています。具体的には、癌、病変、その他の異常の特定、医療処置や介入の誘導、血管および心臓画像診断の精度向上、血栓やプラーク蓄積の検出、さらには肺塞栓症や深部静脈血栓症といった疾患の診断などに幅広く利用されています。現代の医療診断において、造影剤は単なる補助的な薬剤ではなく、病変の早期発見、正確な診断、そして適切な治療方針の決定に不可欠な基盤技術として位置づけられています。その利用は、患者の予後改善に直接的に寄与し、医療の質の向上に不可欠な要素となっています。

### 2. 市場成長の促進要因

造影剤市場の成長を牽引する主要な要因は以下の通りです。

#### 2.1 慢性疾患および複雑な併存疾患の罹患率増加
世界的に慢性疾患の罹患率が増加しており、これに伴い複雑な併存疾患を抱える患者数も増大しています。これらの疾患は、早期かつ正確な診断が治療の成否を分けることが多く、診断画像検査の需要を大幅に押し上げています。超音波、X線、MRI、CTスキャンといった高度な画像診断技術は、疾患の特定、治療の必要性の評価、インターベンション手術前後の perioperative スキャンなど、多岐にわたる医療プロセスにおいて不可欠です。

例えば、慢性疾患は世界的な主要な死因であり、多くの人々が複雑な併存疾患に苦しんでいます。欧州連合（EU）では、現在推定5,000万人が複雑な併存疾患を抱えており、この数は今後さらに増加すると予測されています。米国心臓協会（American Heart Association）の報告によると、米国における心不全の頻度は増加傾向にあり、2020年には約65万9,000人が心血管疾患で死亡しました。心臓病を患う人々の数は、2030年までに46%増加すると予測されています。これらの疾患による死亡の多くは、早期発見によって回避可能です。したがって、慢性疾患および複雑な併存疾患の罹患率増加は、画像診断検査および造影剤の需要を直接的に高める主要な促進要因となっています。造影剤を用いることで、病変の微細な変化を捉え、疾患の進行度や治療効果を客観的に評価することが可能となり、患者のQOL向上に大きく貢献しています。

#### 2.2 診断画像診断モダリティの技術進歩
診断画像診断の分野における技術革新は、造影剤市場の成長を強力に後押ししています。これには、画像診断装置自体の性能向上に加え、造影剤の投与技術の進歩も含まれます。例えば、シリンジレスインジェクターのような革新的な製品は、造影剤の正確な投与量を実現し、薬剤の無駄を削減します。これらのインジェクターは、検査時間の短縮にも寄与し、結果としてより多くの患者を効率的に検査できるようになるため、医療機関の患者スループットを向上させます。

2016年には、ブラッコ・ダイアグノスティクス社（Bracco Diagnostics）が米国で初のシリンジレスインジェクター「CT Expres 3-D」を発売しました。このマルチドーズデリバリーシステムは、複数の患者に使用できるように設計されており、1日あたりのスキャン数を増加させることを可能にしました。このような技術革新は、造影剤を用いた診断の安全性、効率性、そして利便性を高め、その普及をさらに加速させています。

### 3. 市場成長の抑制要因

市場の成長を阻害する主な要因は以下の通りです。

#### 3.1 ガドリニウム系造影剤の使用に関する安全性懸念
ガドリニウム系造影剤はMRI診断において非常に有効な手段ですが、その使用に関連する安全性への懸念が市場の成長を一部制限しています。2015年の一部の研究では、線形ガドリニウム系造影剤が脳内に蓄積する可能性が示唆されました。米国食品医薬品局（FDA）は、脳内ガドリニウム残留に関連する有害事象は観察されていないとしながらも、懸念は払拭されませんでした。

これを受け、欧州医薬品庁（EMA）は2017年に、MRIで使用される一部の線形ガドリニウム系造影剤の販売に制限を課すと発表しました。これにより、欧州市場ではMagnevist、Omniscan、Optimarkなどの販売が中止されました。同年、米国FDAも、小児患者、妊婦、腎臓疾患患者を含むリスクのある患者群に対して、ラベルに禁忌として警告を追加するよう指示しました。これらの規制措置は、ガドリニウム系造影剤、特にMRI造影剤セグメントの成長を抑制する重要な要因となっています。これらの懸念は、医療従事者による造影剤選択の慎重化を促し、代替造影剤の開発や、より安全性の高いマクロサイクル型ガドリニウム製剤への移行を加速させる要因ともなっています。

### 4. 市場機会

造影剤市場には、以下のような大きな機会が存在します。

#### 4.1 市場参加者による戦略的取り組み
主要な市場参加企業は、市場シェアを拡大し、収益性を向上させるために様々な戦略的取り組みを展開しています。これには、企業合併・買収（M&A）や適応症拡大などが含まれます。

* **合併・買収（M&A）:** M&Aは、企業がグローバルなリーチを拡大し、製品ポートフォリオを強化するための効果的な手段です。これにより、新技術の獲得、市場への迅速な参入、競争力の強化が可能となります。
* **適応症拡大:** 特定の疾患や患者層に対する造影剤の適応症を拡大することは、市場における企業の信頼性を確立し、製品の受容性を高める上で非常に重要です。企業は、特定の狭い患者群をターゲットとし、特定の適応症に対する承認を得ることで、市場への浸透を図ります。例えば、2017年にはGEヘルスケア社の造影剤「Visipaque」が、成人および小児患者における冠動脈CTアンギオグラフィー（CCTA）用途として米国FDAの承認を取得しました。この新しいCCTAにより、医療従事者は冠動脈疾患（CAD）患者の冠動脈をより詳細にスキャンできるようになり、診断精度が向上しました。

さらに、主要な市場プレイヤーは、ラベル拡張を申請するために無作為化臨床試験を実施しています。これは、医師からの信頼を獲得し、推奨される病院リストへのアクセスを確保するために不可欠です。これらの取り組みは、市場での地位を維持し、満たされていない医療ニーズ（unmet medical needs）に対応する機会を捉える上で役立ちます。

#### 4.2 満たされていない医療ニーズへの対応
癌などの長期的な疾患を抱える患者や、小児、高齢者といったリスクの高い患者群には、いまだ多くの満たされていない医療ニーズが存在します。市場参加企業は、これらの特定の患者群をターゲットとし、造影剤の新たな用途開発や既存製品の改良を通じて、これらのニーズに応えようとしています。このような市場シェア拡大への努力と、各企業の販売・マーケティング戦略が相まって、造影剤の使用は今後さらに拡大していくと予想されます。

### 5. セグメント分析

#### 5.1 地域別分析

* **北米:** 世界の造影剤市場において最大のシェアを占めており、予測期間中にCAGR 8.7%で成長すると推定されています。この地域には、確立された医療施設、高度な技術の容易な利用可能性、疾病スクリーニングイニシアチブや疾病管理による診断処置への高い需要が存在します。主要メーカーによるニッチな患者層をターゲットとした様々な戦略的取り組みも、市場成長を加速させると予測されます。ただし、不必要な処置を抑制するための適切な使用基準を導入する医療改革が、処置件数を減少させる可能性も指摘されています。
* **アジア太平洋地域:** 予測期間中にCAGR 7.4%で成長すると予測されています。高齢化の進行、慢性疾患への罹患率の増加、医療インフラの改善、診断画像検査の増加が市場成長を牽引しています。特に日本はアジア最大の造影剤市場であり、画像診断技術への需要増加、大規模な高齢者人口、高い医療費支出が市場成長に貢献しています。
* **欧州:** MRI、CT、超音波などの診断画像診断モダリティが急速に増加しています。診断処置は全てのモダリティで増加しているものの、超音波造影剤セグメントは比較的安定しており、この地域での造影剤の適応症拡大は少ないと予想されます。欧州の超音波造影剤は価格が低く、オフラベル適応症で広く使用されています。
* **ラテンアメリカ:** 予測期間中に有利な成長を示すと予想されています。高齢化人口の増加とライフスタイルの変化による慢性疾患の罹患率の増加が、市場を刺激する主要な要因です。高齢者人口のかなりの割合が運動障害に苦しんでおり、これらの製品に対する大規模な需要を生み出すと予想されます。
* **中東およびアフリカ:** 南アフリカが最大の市場シェアを占めました。同国は、非感染性疾患による死亡リスクが最も高い国の一つです。他の低・中所得国と同様に、南アフリカも慢性肺疾患、糖尿病、癌、脳卒中、心臓病などの非感染性疾患の増加を経験しています。HIV患者の60%以上が結核を併発しているにもかかわらず、国民は非感染性疾患で死亡する可能性が高いです。したがって、高い死亡率は、特に予防可能な疾患に対する早期管理慣行を促進し、同国における診断サービスおよび関連製品の需要を増加させると予想されます。

#### 5.2 造影剤の種類別分析

* **ヨード系造影剤:** 世界市場を支配しており、予測期間中にCAGR 7.8%で成長すると予測されています。ヨード系造影剤は通常静脈内に投与されますが、経口または直腸投与のためにバリウム系造影剤に置き換えられる場合もあります。ヨード系造影剤はCTおよびX線画像を強化するために使用され、消化器系、内臓、動脈および静脈、軟部組織、脳の視認性を向上させます。注入される造影剤を使用するすべての放射線検査でヨード系造影剤が使用されます。さらに、ヨード系造影剤は他の薬剤よりも優れたX線不透過性を示し、比較的危険性が低いとされています。
* **種類:** ヨード系造影剤は、さらにイオン性造影剤と非イオン性造影剤の2種類に分類されます。イオン性造影剤は非イオン性造影剤よりも以前に開発されました。イオン性薬剤の例としては、ヨードパミド、イオサラメート、ジアトリゾ酸などがあります。非イオン性造影剤は浸透圧が低く、毒性も低いという特徴があり、ヨウ素が有機化合物に結合しています。非イオン性薬剤の例としては、イオジキサノール、イオヘキソール、イオパミドール、イオベルソール、イオキシラン、イオプロミドなどが挙げられます。非イオン性造影剤は、より優れた安全性プロファイルと患者の忍容性から、現代の臨床で広く利用されています。

#### 5.3 モダリティ別分析（適用モダリティ）

* **X線/コンピューター断層撮影（CT）:** 世界市場を牽引しており、予測期間中にCAGR 7.8%で成長すると予測されています。X線/CT造影剤は、高解像度の3D構造画像を生成するのに役立ちます。バリウム系造影剤とヨード系造影剤がX線およびCT技術で使用されます。バリウムおよびヨウ素造影剤が体内に投与/注入されると、X線を遮断し、X線が通過するのを妨げます。その結果、一時的にバリウム系またはヨード系造影剤を含む臓器、血管、その他の身体組織の外観が画像上で変化し、コントラストが強調されます。X線およびCTは、多様な疾患の診断に広く使用されており、造影剤の利用によって、骨折、内臓損傷、腫瘍の検出、血管異常、炎症性疾患など、幅広い病態の診断精度が向上しています。

#### 5.4 疾患領域別分析

* **神経疾患:** 世界市場を支配しており、予測期間中にCAGR 7.1%で成長すると予測されています。神経疾患の診断におけるMRI造影剤の使用は増加しています。これは、CTよりも神経構造の優れた画像を提供するためです。ガドリニウム系造影剤は、脱髄性病変、炎症性病変、および腫瘍性病変を視覚化するために使用されます。MRI検査の3分の1は、画像品質を向上させるためにガドリニウム系造影剤を使用しており、これにより血管、炎症、悪性腫瘍の視認性が向上し、診断精度が高まります。
* 米国で神経疾患の診断に最も頻繁に使用されるマクロサイクル型ガドリニウム系造影剤は、Gadavist、Dotarem、Prohanceです。これらは、脳、脊椎、および関連組織における異常な血管新生を伴う病変を視覚化するために、成人および2歳以上の小児患者への静脈内使用が適応とされています。2015年には、Gadavistが2歳未満の小児患者への使用について米国FDAの承認を受けました。これらの承認により、ガドリニウム系造影剤の採用が増加すると予想されます。加えて、X線/CT造影剤も神経疾患の診断に広く応用されており、これがセグメントの成長にさらに貢献しています。これらの造影剤は、脳腫瘍の鑑別診断、多発性硬化症の活動性病変の検出、脳血管疾患の評価など、神経学分野における精密診断に不可欠なツールとなっています。

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